1on1ミーティングにおけるメンターの対話手法

CTOの役割を後任に引き継いだ後は、非エンジニア職のマネジメントが多くなりました。ここ1年半くらいカスタマーサクセスの組織立ち上げをしており、様々なメンバーと対話して気がついたこと整理してみました。

1on1のしっくりくる体系化された方法論が見つからず、あれこれ自分自身で試行錯誤した結果として『T/Aフレームワーク』という方法論に落ち着きました(自分の中では)。最近は新入社員(営業職)のメンターをやっているのですが、一定の効果を得られている気がします(たぶん)。いわゆるマネジメントのためではなく、メンタリングの場合に使える方法論かと思います。

T/Aフレームワーク

対話の中で、メンターは下記の4つの行動を利用する。

  • 話しかける (Talk)
  • 問いかける (Ask why and how)
  • 教える (Teach)
  • アドバイスする (Advice)

これらを分類すると2つの見方があり、まとめると以下の表になる。

 メンティーが喋るメンターが話す
初学者話しかける (Talk)教える (Teach)
熟練者問いかける (Ask why and how)アドバイスする (Advice)

便宜上、『話しかける』と『教える』を合わせて『Tの行動』と呼ぶ。同じく、『問いかける』と『アドバイスする』を合わせて『Aの行動』と呼ぶ。

メンティーの習熟度が低い場合は『Tの行動』を使い、習熟度が高い場合は『Aの行動』を使う。どちらかだけに限定する必要はないので、メンティーの習熟度に合わせて『Tの行動』と『Aの行動』の割合を変えるのが理想です。

また、1回の対話において『メンティーが喋る』と『メンターが話す』はそれぞれ50%の割合が適切です。メンターが話すぎるとダメ。メンティーが喋りすぎるのもダメ。ただ話を聞くだけなら、あなたがやる必要はない。

メンティーに喋ってもらう

話しかける (Talk)

相手に喋ってもらうために話しかける。ポジティブでもネガティブでもない中立的な質問を投げるのが良い。

最近の仕事はどんな感じ?
この一週間はどうだった?

問いかける (Ask why and how)

答えを考えさせるための質問をする。メンティーが喋った内容をおうむ返して「なぜ?」「どうして?」と問いかける。

相手> 先輩のお客さんへのヒアリングがすごいんですよね。
自分> どんな部分が "すごい" の?
相手> なんか、ぐいぐい聞く感じが...(自分だったら遠慮して聞けないことを質問する)
自分> なんで、先輩は遠慮せずに "ぐいぐい聞ける" と思う?
相手> うーん...

メンターから話す

教える (Teach)

初学者は自分で0から考えても、答えを出せない。はじめはメンターから答えを教えてあげる。ただし、1から10までのすべてを教えずに1,2くらいを伝えると良い。

種まきに近い感覚です。何度か話す機会を重ね、同じことを繰り返し伝える。問いかけることで、3から10をメンティー自身が引き出せるように支援する。

アドバイスする (Advice)

メンティーに一定の判断力がある場合はアドバイスをする。『教える』との違いは、考え方の選択肢を提示をするが答えは言わない。あくまでも、メンティー自身で答えを見つけてもらう。

メンタリング思想

自分自身の勝手な哲学ですけど…

ヒトは勝手に育つ

相手に変わってもらおうとしないこと。他者からのアドバイスでヒトは成長しない。

仮に、彼・彼女がメンタリングを通じて成長したとしても、あなたのお陰では一切ない。彼らは賢い。あなたが何もしなくても、自らの力でたどり着いたはずの場所である。

「人を育てるのが好き」という人はメンターに向いていないと思います。メンタリングは教育ではない。メンターの役割は、本人の中にある答えを本人に視せてあげることです。

「悩む」と「考える」の違い

「悩む」と「考える」はまったく異なる行動です。「イシューからはじめよ」に書かれている定義が好きなので引用しておきます。

「〈考える〉と〈悩む〉、この2つの違いは何だろう?」 僕はよく若い人にこう問いかける。あなたならどう答えるだろうか?

僕の考えるこの2つの違いは、次のようなものだ。 「悩む」=「答えが出ない」という前提のもとに、「考えるフリ」をすること 「考える」=「答えが出る」という前提のもとに、建設的に考えを組み立てること この2つ、似た顔をしているが実はまったく違うものだ。

メンタリングを通じて『答えが出せず悩んでいた状態』から『(正解かどうかわからないが、)自分で考えて答えを出せる状態』になれば良い。

悩んでいる相手には、『Tの行動』で答えと関係のない悩みの枝を刈り取ってあげる。「悩む」と「考える」の違いを理解し、自分自身で悩んでいる状態を認知できる相手には、『Aの行動』で一緒により良い答えを見つける議論をする。

『T/Aフレームワーク』に注釈を付けるとすれば、下記の表になる。

 メンティーが喋るメンターが話す
初学者(悩みやすい人)話しかける (Talk)教える (Teach)
熟練者(考えられる人)問いかける (Ask why and how)アドバイスする (Advice)

アンチパターン

事前準備させる

メンティーがメンタリングの準備ができるなら、メンタリングいらない。事前準備ができる状態であれば、メンティーのレベルが高いか、メンターがその人を支援できるほどのレベルを有していない。冷静な判断でメンターを変えた方が良い。

メンターを選ばせる

自分に合ったメンターが適切に選定できるとは限らない。「メンターになってください」と頼まれたら、一度話を聞いて適切な人を紹介するのが良い(自分が適任なら、そのままメンターを引き受ければ良い)。

利害関係のある人がメンターになる

直属のマネージャーがメンターの役割を果たすのは難しい。短期成果が邪魔になり、メンティーが考えている時間をじっくり待てない。社外の人や斜めのマネージャーなど、メンターは成果に無責任な方がちょうど良いと思う。